免疫チェックポイント分子PD-1の免疫抑制メカニズム


T細胞の活性化は、T細胞受容体(T cell receptor : TCR)からの抗原特異的なシグナルと、副刺激受容体からの非特異的なシグナルとによって制御されている。副刺激受容体には正と負の受容体があり、T細胞の活性化状態により発現が変わり、また、抗原提示細胞(antigen-presenting cell : APC)や末梢組織にあるリガンドも、状況に応じて種類と発現量を変化させる。ゆえにT細胞は、置かれている微小環境によってTCRや副刺激受容体からのマルチなシグナルを受け、活性化や抑制、ヘルパーサブセットへの分化、エフェクター機能の発現、細胞死や生存など、その環境に適切で多様な応答を示す。本稿では、副刺激受容体の中でも、特に近年免疫チェックポイント分子として注目されている負の副刺激受容体PD-1programmed-cell death-1CD279)の生理機能を概説しよう。

PD-1とそのリガンド

 

T細胞副刺激受容体は構造的に免疫グロブリンスーパーファミリー(immunoglobulin superfamily : IgSF)と腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor : TNFSFに大別され、前者のCD28ファミリーの中に、正の副刺激受容体CD28ICOSinducible T cell costimulator, CD278)と負の副刺激受容体CTLA-4cytotoxic T cell antigen-4CD152)、PD-1BTLAB and T lymphoma attenuatorCD272)が含まれる1)2)PD-1は、細胞死関連分子として同定されたI型膜タンパクで、Ig可変領域と95アミノ酸の細胞内領域があり、単量体として細胞表面に発現している3)PD-1のリガンドは、IgSFB7ファミリーのPD-L1PD-1 ligand-1H7-H1CD2744)PD-L2B7-DCCD2735)6)の二つが報告されており、Ig可変領域と定常領域を有する単量体である。PD-L130アミノ酸の細胞内領域を持ち、リンパ球系細胞以外にも血管内皮や上皮細胞など体内に広く発現しており、またCD80とも結合し、双方向に抑制性シグナルを伝える7)PD-L2は活性化した抗原提示特化APCに発現し、PD-1との結合能はPD-L13倍と高い。細胞内領域はヒトで30、マウスで4アミノ酸しかないが、原発性マクログロブリン血症から単離された抗PD-L2モノクローナル抗体の刺激により樹状細胞(dendritic cell : DC)が活性化したことから、PD-L2もシグナルを伝えると考えられている8)(図1)。

 

 

PD-1PD-L1/2の発現調節

 

PD-1は活性化したT/B細胞、疲弊・濾胞・制御性T細胞(regulatory T cell : Treg)、Natural killerNKT細胞、活性化した骨髄系DCmyeloid DC : mDC)や単球に発現している。PD-1の発現はTCR刺激後26時間と1回目の細胞分裂より早く、また1週間以上も持続するため、ナイーブT細胞の初期の活性化からエフェクター細胞への分化、記憶T細胞樹立の全ての段階で機能し得る9)T細胞でのPD-1発現は、I型インターフェロン(interferon : IFN)添加によりさらに増強し、これはPD-1のプロモーター領域に、IIFN受容体下流の転写因子IRF9TCR下流の転写因子NFATc1の結合領域が存在することによる。またこの領域は、慢性ウイルス感染時にCpGの脱メチル化と再メチル化の制御を受ける10)T細胞でのPD-1の発現は、IL-2IL-7IL-15IL-21受容体に共通なg鎖(common γ : cγ)を介する刺激でも上昇する。mDCではToll様受容体(TLR234)、NLRファミリー分子(NOD1/2)によっても発現する。エストロゲンによるTreg、マクロファージ、B細胞、mDCでの発現誘導も報告されており、妊娠時のPD-1による免疫寛容誘導も示唆される。

            PD-L1は、T/B細胞、マクロファージ、mDC、リンパ球系DCplasmacytoid DC : pDC)、骨髄マスト細胞などのリンパ球系細胞の他に、血管内皮、腸管上皮、線維芽細胞性細網細胞、膵島、胎盤トロホブラスト、中枢神経細胞、星状膠細胞、視神経細胞、網膜色素上皮などに恒常的に発現している。PD-L1のプロモーター領域には転写因子IRF1STAT3の結合領域があり、PD-L1の発現はIIFNIFN-gTNFaの添加でさらに上昇する。T/B細胞ではcgサイトカイン刺激、マクロファージやDCではGM-CSFIL-4によっても上昇する。PD-L1は癌細胞にも多く発現しており、また、PD-L1遺伝子が低酸素誘導因子HIF1aの標的分子になっていることから、癌の低酸素環境下ではさらに発現が上昇すると考えられている11)。また多発性骨髄腫細胞では、MyD88­­–TRAF6–MEK­経路を介するIFNgTLRリガンドによるPD-L1の発現上昇が報告されている。PD-L2の発現は、GM-CSFIFNgIL-4cgサイトカイン、TNFaなどの刺激により、m/pDC、マクロファージ、B-1 B細胞、骨髄マスト細胞などに誘導される。これら一連の発現パターンから、炎症性サイトカインが局所的に増加する環境、特に慢性的な感染や炎症下においてPD-1PD-L1/2が発現し、受容体とリガンドとの双方向的な抑制化シグナルが免疫寛容を誘導すると考えられる。

 

 

PD-1下流のシグナル伝達系

 

PD-1の細胞内領域には、シグナル伝達に重要な二つのチロシン残基モチーフimmunoreceptor-tyrosine-switch motifITSMTxYxxL/I)とimmunoreceptor-tyrosine-based inhibitor motifITIMS/I/LxYxxI/V/L)があり、リガンドとの結合を機にリン酸化され、フォスファターゼSH2-containing tyrosine phosphatase 2 (SHP2)SHP1と会合する。リン酸化されたITSMにはSHP2SHP1が、ITIMにはSHP2のみが会合し、PD-1の抑制機能もITSMによるところが大きい。T細胞では、ITSM/ITIMSHP2と恐らくSHP1が会合し、CD3z鎖、TCR下流のキナーゼzeta-associated protein of 70kDZap70)とprotein kinase C θPKCθ)が12)B細胞ではSHP2のみが会合し、Igb鎖、B細胞受容体下流のキナーゼspleen tyrosine kinase geneSyk)、extracellular signal-regulated kinaseErk)、リパーゼphospholipase Cγ2PLCγ2)が脱リン酸化され、両抗原受容体からの活性化シグナルの抑制が起こる13)

            T細胞がAPCと情報の遣り取りを行う際、抗原提示に必要な受容体とリガンドは2つの細胞の接着面に集まり、受容体と接着分子からなる同心円構造「免疫シナプス」が形成される(図2)。筆者らは、免疫シナプスがさらに小さなシグナルソーム「マイクロクラスター」によって構成されていることを発見した14)。マイクロクラスターは凝集した数10個のTCR1つの単位となっているが、PD-L1との結合を機に、PD-1もマイクロクラスターに移動し、リン酸化され、SHP2をマイクロクラスターにリクルートした15)SHP2の基質となるCD3ζZap70PKCqもマイクロクラスターに凝集してくることから、PD-1を介した脱リン酸化反応も全てマイクロクラスターで行われていると考えられる。PD-1自身のITSM/ITIMの脱リン酸化も会合するSHP2によって行われるため、SHP2Zap70PKCθの脱リン酸化を終えるとすぐにマイクロクラスターから解離し役目を終える。

            もう一つの抑制性の副刺激受容体CTLA-4も細胞内に存在するITIM様領域にSHP2SHP1が会合すると報告されている。PD-1との違いは、CTLA-4には別のフォスファターゼprotein phosphatase 2APP2A)が会合すること、PD-1がフォスファチジルイノシトール3リン酸化酵素(phosphatidylinositol-3-kinase : PI3K)を介してその下流のセリンスレオニンキナーゼAktを抑制する一方、CTLA-4PP2Aを介して直接Aktを脱リン酸化すると考えられているが16)、筆者らのイメージング解析では、CTLA-4CD28とそのリガンドCD80/CD86との結合に対する拮抗阻害が主であり、NF-κBシグナルを抑える一方、PD-1SHP2を介して直接TCR下流近傍シグナルを抑制していると考えられる。

 

PD-1と胸腺分化

 

PD-1は、胸腺組織のCD4- CD8- double negativeDNabよびgdT細胞に発現している。b鎖再構成が始まるCD44- CD25+ DN IIIステージから発現を開始し、CD44- CD25- DN IVステージで高く、double positiveDP)胸腺細胞では低下する17)。一方、PD-L1は胸腺皮質上皮と胸腺T細胞自身に、PD-L2は胸腺髄質上皮に発現している。PD-1欠損マウスと2CおよびHYクラスI拘束性TCRトランスジェニックマウスとの交配実験では、DP胸腺細胞の増加とCD8+ T細胞の減少が見られることから、PD-1は胸腺T細胞のTCRシグナルの閾値を調節し、正の選択を抑制、負の選択を調節し、自己反応性の少ないTCRレパトア選択を行っていると考えられる18)I型糖尿病自然発症マウスNODと野生型マウスとのマイクロアレイの結果からも、PD-1の胸腺での免疫寛容への寄与が示唆されている19)

 

 

 

PD-1と制御性T細胞

 

誘導性Treginducible Treg : iTreg)の培養条件(抗CD3抗体とtumor growth factor-β TGF-β))にPD-L1-Igを加えると、ナイーブT細胞から効率良くiTregを誘導でき、またPD-L1欠損マウスのAPCiTregへの分化の効率が落ちる20)。これまでもラパマイシンなどのmTOR阻害剤がiTregの誘導を促進することが知られていたが、PD-L1-IgPTENを誘導しTCR下流のAkt–mTOR活性を抑えることで、iTregでのFoxp3を誘導すると考えられる。逆に、PD-L1の発現はPTENによって抑制されることから、PTENの発現上昇を誘導するPD-1シグナルは、iTregの分化を止めるフィードバック抑制機構としても働きうる。炎症やがんの微小環境ではサイトカインなどによるAPCや組織のPD-L1の発現上昇があり、必然的にそのような環境下ではナイーブT細胞からiTregへのde novo分化、もしくはエフェクターT細胞からiTregへの転換が起こり、炎症の慢性化や末梢での免疫寛容が誘導される。また、自然発生Tregnatural occurring : nTreg)もiTregPD-1PD-L1の両方を発現しており、Treg上のPD-L1は、他のエフェクターT細胞上のPD-1を刺激して新たなiTregへの分化を促し、DC上のPD-1を介してDCCD80/CD86発現を低下、免疫寛容を誘導する(図1)。また、スプライシングによってできた可溶性PD-1は、DCCD4+ T細胞からの抑制性サイトカインIL-10産生を誘導すると報告されている。

 

 

 

PD-1欠損マウスと自己免疫疾患の自然発症

 

PD-1欠損マウスは、作成当初、外来抗原に対する過剰な抗体産生を示したが、C57BL/6系統への戻し交配により、6ヶ月以上の長期飼育での糸球体腎炎と関節炎の自然発症、脾腫、自己抗体産生を呈した21)。また、BALB/c系統への戻し交配では、I型心筋トロポニンや胃壁細胞に対する自己抗体による拡張性心筋症と胃炎を発症した22)。自己免疫を背景とした最初の拡張性心筋症の実験モデルであり、後に抑制性副刺激受容体lymphocyte activation gene 3 (LAG-3)欠損と相乗的に病状を悪化させることが分かった23)I型糖尿病自然発症マウスNODPD-1欠損マウスとの交配や、NODマウスへの抗PD-1/PD-L1抗体の投与では糖尿病の早期発症と重症化が、自己免疫発症モデルマウスMRLPD-1欠損マウスとの交配では致死的な自己免疫心筋症を発症する。同じ抑制性副刺激受容体CTLA-4欠損マウスとの違いは、CTLA-4欠損が遺伝的背景によらず、生後5週でT細胞を中心とした炎症細胞の全身性の浸潤による非抗原性非特異的自己免疫応答で死亡するのに対し、PD-1欠損は大分遅れてから臓器特異的自己免疫応答を呈する点である。また、遺伝子欠損と野生型との同時骨髄移植実験では、CTLA-4欠損+野生型が自己免疫を発症するのに対し、PD-1欠損+野生型では正常化することから、CTLA-4T細胞の内因・外因性両方で免疫抑制効果を持つ一方、PD-1の抑制効果は外因性なものが主であると考えられる。

 

 

 

PD-1の遺伝子多型と疾患

 

PD-11塩基多型(single-nucleotide polymorphisms : SNPs)と疾患との関連性を示す最初の報告は、欧州とメキシコの全身性エリテマトーデスの患者群であり、PD-1のエンハンサー領域にあるrunt-related transcription factor 1 (Runx1)結合領域に同定された24)。同じPD-1SNPは、デンマークのI型糖尿病でも同定されている。他にもドイツの多発性硬化症、オーストラリアの関節リウマチ、ドイツのバセドー病、韓国の川崎病、中国の強直性脊椎炎などで報告されている。また、PD-L1と日本でのバセドー病、PD-L2と台湾での全身性エリテマトーデスのSNPsの報告もある。

 

 

 

PD-1とウイルス感染

 

PD-1とウイルス感染との関連性を最初に示した実験は、アデノウイルス誘導肝炎モデルである25)PD-1欠損マウスではアデノウイルスの排除は早いが肝臓の組織破壊が強く、PD-1は急性感染時の免疫細胞やサイトカインによる自己組織の破壊を回避し慢性化の方向へ導くと考えられる。実際にこれはlymphocytic choriomeningitis virusLCMV)の急性型Armstrong株と慢性型Clone13株の感染実験でも示された26)。急性型Armstrong株は野生型、PD-L1欠損どちらのマウスからも排除されるが、慢性型Clone13株は、野生型マウスでは、不応答(アナジー)となったウイルス特異的 PD-1hi CD8+ T細胞、いわゆる疲弊T細胞を増加させ、ウイルス感染を慢性化させる。疲弊T細胞は、抗PD-L1/PD-1抗体の投与により細胞傷害活性を取り戻すし、アナジー成立後も急性型Armstrong株に対する排除能は有している。一方PD-L1欠損マウスでは慢性型Clone13株でのウイルス特異的T細胞の不応答が成立せず、肝障害で死亡する。ヒトでもHIV感染ではウイルス特異的 PD-1hi CD8+ T細胞が出現し、抗PD-L1抗体により機能が回復する27) 28)。慢性B型およびC型肝炎ウイルス感染では、ウイルス特異的CD8+ T細胞のPD-1発現上昇の他、CD14+ 単球とmDCでのPD-L1の発現上昇も見られる。ウイルス感染以外でも、Helicobacter pylori感染での胃粘膜上皮のPD-L1発現、Taenia crassiceps感染でのマクロファージのPD-L1/PD-L2CD4+ T細胞のPD-1上昇、Schistosoma mansoni感染でのマクロファージのPD-L1上昇など、細菌や寄生虫感染でもPD-1–PD-Lを介した炎症の慢性化が示唆されている。抗PD-1/PD-L1抗体を用いた慢性感染症の治療や、抗原特異的T細胞の疲弊状態や病状判定へのPD-1の応用が進んでいる

 

 

 

PD-1とがん

 

PD-1—PD-L1結合が腫瘍による免疫寛容の誘導に寄与しているという最初の報告は、PD-L1を強発現させた肥満細胞腫瘍株P815CD8+ T細胞の細胞傷害活性を受けにくいという実験結果である29)。抗PD-L1抗体は、癌の増殖を抑え生存期間を延長するだけでなく、転移も抑制する。実際の腫瘍でPD-L1の発現上昇が報告された最初の例は、肺癌、卵巣癌、大腸癌、悪性黒色腫であり、PD-L1IFNgにより誘導され、PD-L1発現腫瘍はT細胞の細胞傷害活性を抑えるだけでなく、FasLIL-10を介してT細胞の細胞死も誘導する30)。その後、乳癌、膀胱癌、肝細胞癌、唾液腺癌、胃癌、グリオーマ、甲状腺癌におけるPD-L1の発現が報告され、また、腎癌を最初の例として、卵巣癌、膀胱癌、乳癌、胃癌、食道癌、膵癌でのPD-L1発現と予後との相関が示された31)。固形癌以外でも多発性骨髄腫、Hodgkinリンパ腫、HTLV1などリンパ球系の腫瘍でのPD-1PD-L1の発現上昇も見られる。また、所属リンパ節内のmDCPD-L1を発現しているなど、癌細胞と共に免疫寛容の環境を作り出している32)

この宿主免疫からの逃避機構を逆手にとった治療として、本年から日本においてもヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体ニボルマブ(nivolumab)の悪性黒色腫治療に対する使用が認可された。米国における第1相試験での歴史的成功は本誌他項を参考にされたい。ヒト型抗CTLA-4抗体イピリムマブ(ipilimumab)との同時使用により、単体使用の2倍の奏効率を示したという報告もあることから、抗PD-1/PD-L1抗体療法は、今後、適応する癌腫を広げるだけでなく、集学的治療でのポテンシャルを秘めた画期的な治療と期待される。

 

 

 

PD-1と自己免疫疾患

 

前述の通り、PD-1T細胞への直接的な抑制機構だけでなく、環境によるiTregの分化誘導にも寄与していることから、PD-1を介する免疫抑制機構の異常は、内因性およびiTregの分化障害を介した外因性の免疫寛容の破綻を生み、自己免疫疾患発症へと進展する。

            PD-1欠損NODマウスの実験結果に反して、ヒトのI型糖尿病での膵島b細胞の破壊とPD-1の直接的な関係は明確にはされていない。I型糖尿病患者の末梢血Tregの機能も正常・異常どちらの報告もあるが、微小環境を考慮すると、膵島に局在する細胞を採取しない限り確かなことは言えないだろう。一方、マウスの膵島細胞にはPD-L1が発現しており、エフェクターT細胞からの攻撃を直接減弱させるのと同時に、CD4+ T細胞のiTregへの分化転換を行うことが分かっている。また、膵臓の上皮細胞や血管内皮細胞にもPD-L1が発現しており、エフェクターT細胞の膵島への浸潤の際の水際防御機構となっている。腎皮膜下移植した膵島の二光子顕微鏡観察では、抗PD-L1抗体の投与によって、膵島抗原特異的CD4+ T細胞と膵島細胞との接着性が高まることが示された33)。膵島細胞のPD-L1には、攻撃してくるエフェクターT細胞のストップシグナルを解除し、膵島細胞を細胞傷害から守る機構もあるようだ。

            多発性硬化症とPD-1との関連性も指摘されている。PD-1PD-L1は中枢神経系の細胞にも広く分布し、網膜神経細胞はPD-1だけでなく、炎症によりPD-L1/2も発現する。神経細胞以外でも、星状膠細胞や脳内血管内皮細胞はPD-L1を発現しており、中枢神経系で抗原提示細胞の役目を担う小膠細胞もIFNg刺激によりPD-L1を発現する。多発性硬化症のマウスモデルある実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis : EAE)においても、脳脊髄に浸潤してくる炎症細胞にはPD-1PD-L1/2が発現しており、PD-1欠損マウスや、PD-1PD-L1結合阻害抗体を投与された野生型マウスではEAEの早期発症と重症化を呈する。骨髄キメラマウスの実験から、EAEの制御にはリンパ球系細胞だけではなく、マクロファージなど骨髄系細胞でのPD-1の発現も必要であることが分かっている。また、神経細胞自身も炎症によりPD-L1TGF-bを発現し、炎症局所において脳炎病原性エフェクターT細胞からiTregへの分化を誘導、脳脊髄炎の緩和を促すと考えられている34)

            腸管粘膜上皮の免疫寛容誘導とPD-1との関連性も指摘されている。クローン病や潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease : IBD)の患者腸上皮細胞ではPD-L1の発現が高い。一般に経口投与された抗原は腸管関連リンパ組織(gut-associated lymphatic tissure : GALT)に局在するレチノイン酸産生CD103+ DCによって提示され、iTregの分化とそれによる経口寛容が誘導されるが、PD-L1発現腸上皮細胞によるiTregの誘導機構も存在する。IBDでは炎症性サイトカインであるIL-12IL-17IL-21IL-23IFNgが炎症局所で増加するため、炎症の責任細胞であるIL-17産生CD4+ T細胞に対するTregの比率が低下し病状が悪化する。IBDではiTregの他に、CD4+ CD25- PD-1+ T細胞も炎症の終息に寄与していることが腸炎病原性CD4+ CD45RBhigh T細胞のSCIDsevere combined immunodeficient)マウス移入モデルで示されている。また、CD4+ CD45RBhigh T細胞はSCIDマウスへ繰り返し移植されることで、それ自身がPD-1を発現するように変化し病原性を失うことから、PD-1T細胞内因的な腸炎抑制機構も存在すると考えられている。

 

 

おわりに

 

細胞死関連分子として同定されたPD-1は、現在最も応用範囲の広い抑制性副刺激受容体になりつつある。同じ副刺激受容体の中でもPD-1の特筆すべき点はいくつかあり、一つには、リガンドとの結合パターンが複雑で、免疫担当細胞以外にも広く分布していることである。受容体側もリガンド側も環境因子により誘導され、また、リガンドも対抗受容体としてそれ自身が抑制性シグナルを伝える。さらには、抗原提示特化APC以上に、非免疫細胞によるT細胞活性調節が存在する。二つめは、同一の細胞に受容体とリガンドが発現し、また、内因的な活性化制御機構の他、Tregなど他の細胞を介して抑制機能を発揮するという外因的な要素を併せ持つことである。いずれにせよ、炎症が生じた際それを打ち消すような方向に導き、抑制や慢性化を誘導することは確かであるし、何より抗体療法が癌治療に非常に有効であるのだから、益々その分子基盤研究は重要な位置を占めると考える。