免疫シナプスとは?


獲得免疫の制御系の頂点に立つT細胞は、1つの抗原受容体:T細胞受容体(T cell receptor : TCR)を介して、抗原提示細胞に発現されている抗原+MHCを認識し活性化する。情報交換の効率化を図るためにも、この2つの細胞の間には何らかの通信手段が必要であり、このような発想から発見されたのが「免疫シナプス」である。現在では、T細胞のほか、B細胞、NK細胞、NKT細胞にも存在する普遍的な概念となっている。発見から15年が経過し、その研究は2つの潮流となって発展して来た。1つは、今年のノーベル化学賞受賞にも象徴されるように、超解像顕微鏡を用いた「極小世界」への進展であり、T細胞シグナルを可視化することで、多機能受容体としてのTCR機能の謎に迫るさまざまの新しい現象や概念が示されている。もう1つは、「細胞骨格」というマクロな視点からの研究である。浮遊細胞が突如として極性を持つことが、シグナル伝達やエネルギー消費の効率をあげ、細胞内輸送の方向性を決め、多彩な細胞分裂形態を生むために必要であるという、T細胞バイオロジーにおける免疫シナプスの必要性を支持している。本稿では、この2つの視点から、T細胞免疫シナプス研究の最前線につき概説しよう。


古典的免疫シナプス

 

TCRが、実際抗原提示細胞上には少ししか存在しえない抗原ペプチド+MHCといかに効率良く結合し、T細胞に活性化シグナルを伝えるかを説明するため、“Serial triggering”モデル(1つの抗原+MHCが数千のTCRと連続的に結合・解離を繰り返す)、“Pseudo-dimer”モデル(1つのTCRが抗原+MHCに結合すると、隣の自己抗原+MHCに別のいくつものTCRが連続的に結合・解離し、リン酸化される)、“Dwell time”モデル(同じTCRと抗原+MHCが何度も結合・解離を繰り返し、反応を蓄積する)などさまざまな概念が提唱されてきた。免疫シナプスも、そのTCR応答の効率を上げる1つのモデルとして提唱され、イメージングによって証明された構造物である。TCRが単離された30年前から、T細胞と抗原提示細胞との通信手段として、神経細胞に似たシナプス構造の存在が期待されていたが、顕微鏡の進歩に伴いそれが可視化され、Monksらにより“Supramolecular activation cluster (SMAC)”として1)McConnellの抗原提示平面脂質二重膜法を用いたDustinらにより「免疫シナプス (immunological synapse)」として発表された2)。このとき「免疫シナプス」と定義された構造は、T細胞と抗原提示細胞との接着面に構築される、受容体とリガンドおよびその下流のシグナル伝達分子が再配列してできた同心円状構造である。TCRMHCと非典型プロテインキナーゼprotein kinase C θ (PKCθ)が接着面の中心部に集まりcentral(c)-SMACとなり、その周囲を接着分子lymphocyte function-associated antigen-1 (LFA-1)intercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)と細胞骨格分子タリンやアクチンが取り囲み、peripheral(p)-SMACを構築する(図1左上)。細胞表面分子が再配列する機序は、受容体+リガンドの高さが150nm前後の背の低い分子群が中心部に、LFA-1—ICAM-1結合など400nm前後の背の高い分子群はそれより外側に排除される力学モデル“Kinetic segregation”モデルで説明されている。背の高い膜型フォスファターゼCD45は、TCRシグナルの最初のトリガーとなるSrcキナーゼLckの脱リン酸化を行うが、活性化型(=脱リン酸化)Lckに変換後は、ほかのTCR下流シグナル伝達分子の脱リン酸化反応を回避するため、免疫シナプスの外側に追いやられる。CD45が追いやられたp-SMACより外側の領域はdistal(d)-SMACと呼ばれている。このSMAC構造の構築とT細胞の活性化とが相関していたため、免疫シナプスは、T細胞が抗原を認識し活性化するために必須な構造であると考えられるようになった。一方、明確なSMAC構造が確認されるのはT細胞—B細胞間接着であり、T細胞—樹状細胞間接着では不明瞭であったことから、T細胞の活性化に必須とは言えないケースも出てきた。また、後に、より微細なシグナルクラスターが多数発見されてきたことから、現在では、SMAC構造の有無ではなく、T細胞—抗原提示細胞間の機能的接着面を総じて「免疫シナプス」と呼ぶようになっている。

 

 

活性化の最小ユニット:マイクロクラスター

 

免疫シナプスは、形態と機能とを融合させる理想的な概念ではあったが、SMACが構築されるまでにはT細胞と抗原提示細胞との接着後5-10分の時間を要するのに対し、これまでのT細胞の生化学的解析からは、下流のシグナル伝達分子のリン酸化は1分以内にピークに達すること、カルシウムの流入に至っては10数秒で起こることは明らかであった。この矛盾を解決するために、SMACの形成以前のT細胞活性化シグナルを伝える何か別の構造の存在が期待されていた。この矛盾を解決したのが、著者らが発見・命名した「TCRマイクロクラスター」である3) (図1右下)。TCRマイクロクラスターは、20-30個のTCRzeta-chain-associated protein kinase 70 (Zap70)などのキナーゼ、SH2-domain-containing leukocyte protein of 76 kDa (SLP-76)に代表されるアダプターなどTCR下流のシグナル伝達分子が凝集したシグナルソームである。T細胞と抗原提示細胞や、T細胞と抗原提示平面脂質二重膜との接着面に観察される。T細胞は抗原提示膜に遭遇すると、1分をかけて膜上を接着していくが、TCRマイクロクラスターは最初の1点から、新たに広がりつつある接着面に次々につくられ、最終的には接着面全体に200-300個形成される。その後T細胞の収縮に伴い、TCRマイクロクラスターは中心部に移動を始め5分をかけてc-SMACとなる。下流のシグナル伝達分子もTCRマイクロクラスターに凝集するが、数十秒という短い時間しか会合せず、c-SMACとして集まるTCRはシグナル活性を欠き、最終的にはc-SMACにてエンドサートーシスされ役目を終える(図1右下)。カルシウムの流入はTCRマイクロクラスターが2-3個できた時点でピークを迎えること、リン酸化チロシンも形成直後のマイクロクラスターに局在することから、TCRマイクロクラスターの11つがシグナルソームとして機能し、T細胞の活性化は個々のTCRマイクロクラスターからのシグナルの総計であることが想像される。c-SMACが形成された後も、T細胞と抗原提示膜との新たな接着面では、シグナル活性を持った微小なTCRマイクロクラスターが形成され、c-SMACへの移動を繰り返している。ここからのシグナルはT細胞のアクチン重合やインテグリンへのインサイドアウトシグナルとなっており、免疫シナプスの接着性と安定化を担っている。また、T細胞の正の補助刺激受容体CD28は、そのリガンドCD80/CD86と結合することで、c-SMACの最外部にPKCθCARD domain-containing MAGUK protein 1 (CARMA1)を含む輪状のシグナルソームを構築し、nuclear factor-kB (NF-kB)経路の活性中心としてT細胞活性の維持を担う4)。マイクロクラスターは、ヘルパーT細胞のほか、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞をはじめ5)B細胞、NK細胞、NKT細胞など抗原受容体を持つ免疫細胞全般に見られ、各々のシグナルソームとして働いている6)。時空間的ともいえるTCRマイクロクラスターの運動は、アクチン重合によるアクチンレトログレードフロー、ミオシンIIA、ダイニンを介する微小管輸送を動力源として制御されている7)8)。また、活性化シグナル伝達分子だけでなく、抑制性シグナルを担う受容体やシグナル伝達分子も、マイクロクラスターを形成することがわかっている。負の補助刺激受容体cytotoxic T lymphocyte-associated protein 4 (CTLA-4)c-SMACに構築されたCD28—NF-kB活性中心を破壊する9)Programmed cell death 1 (PD-1)は、フォスファターゼSH2 domain-containing tyrosine phosphatase 2 (SHP2)を引き連れながらTCRマイクロクラスターに凝集し、TCR/CD3複合体やマイクロクラスターに集まる活性化シグナル伝達分子を脱リン酸化する10)

 

 

超解像顕微鏡でわかる免疫シナプスの微細構造

 

TCRマイクロクラスターの存在が明らかになった時点で、多くの免疫学研究者は、「マイクロクラスターの形成以前にさらなるクラスターはあるか」という疑問を抱いていた。Davisらは、T細胞の細胞膜の凍結剥離切片を電子顕微鏡観察することで、細胞膜分子がプレクラスター状態で存在することを発見した11)。細胞膜は蛋白組成とリン脂質組成とにより3つの部位に分けられ、① linker for activated T cells (LAT)など脂質raft局在分子の集まった“raft protein island”と、② TCRなどの膜タンパクが豊富な“non-raft protein island”、③ 蛋白が粗な“protein-free plasma membrane”が存在し、非活性状態の細胞では後者③が前者①②を隔離し反応を抑えているという“island”モデルである(図1左下)。当初は標本作製時の人工物である可能性も否定できなかったが、最近の超解像顕微鏡の解析により、プレクラスターの存在が明らかになった。

            現在の超解像顕微鏡には3種類の方式があり、① 従来の蛍光顕微鏡を利用しスリット状の励起光を、角度を変えて照射、画像収集し、スリットの角度の違いから生じるモアレを利用して解像度を上げるstructural illumination microscopy (SIM)、② 共焦点レーザー顕微鏡を応用し、スキャニングレーザーのほかに、放出波長の膨らみを打ち消すためのドーナツ状の脱励起ビームを当て、小領域からのデータを収集するstimulated emission depletion (STED)顕微鏡、③ 微弱な全反射光(エバネッセント光)と光励起可能なスイッチ機能付き蛍光プローブを利用したphotoactivated localization microscopy (PALM) / stochastic optical reconstruction microscopy (STORM)である。PALM / STORMでは、一度全ての蛍光プローブを退色させ、弱い回復波長光で一部のプローブをランダムに回復させ、励起光で位地データを収集、それを何千回と繰り返すことで1枚の画像データを構築するため、xy軸解像度30nmz軸解像度140nmという超高解像度を誇り、ノーベル賞受賞者3人の内、2人の業績もこの原理による。PALMを用いた観察により、電子顕微鏡で確認されていたようなTCRLATとの独立した直径40-250nmのプレクラスター(ナノクラスター)の存在が明らかになり、TCR刺激と共にそれぞれのprotein islandが接合はするが融合することはない、という面白い現象もわかった12)。また、別のPALMを用いた実験では、細胞膜に存在するLATのプレクラスターはTCRの活性化シグナルには関係なく、シナプス直下の小胞 (Subsynaptic vesicles : SSVs)に貯蓄されている小胞内 LATTCR刺激の後で細胞膜にリクルートし、TCRシグナルを伝える活性化LATとして働くことが分かったが13)、細胞表面上に最初から存在するLATTCRのプレクラスターが実際のシグナルに寄与するという結果も最近報告されている。2色の蛍光プローブを用いたPALMの観察では、TCRのプレクラスターは2-3個のTCRからなり、これまで描画されてきた分子間隔離よりも、もっと複雑に混在していることが予想される14)。また、TCRナノクラスターと重なるTCR下流のシグナル伝達分子はZap70のみであり、LATはリン脂質リパーゼphospholipase Cγ1 (PLC γ1)SLP-76などほかのシグナル伝達分子と重なること、特にSLP-76ナノクラスターはLATナノクラスターの周囲を珊瑚礁のように取り囲んでいること、Zap70SLP-76のナノクラスターはTCR刺激の強さとリン酸化の程度によって共局在しえることが明らかになった。このような分子による挙動の違いは、リン酸化チロシンの数とクラスターに集まる分子の数が決まるSLP-76のような蛋白-蛋白分子間作用を機序とする分子か、LATのように蛋白-蛋白と蛋白-脂質間の両方の分子間作用を機序とする分子かの違いであり、これまでの生化学的解析結果を裏付けるものである。さらに、PALMを用いたLckの観察から、Lckナノクラスターの形成が、上記の分子間作用ではなく、CD45による脱リン酸化後の構造変化で起こることが分かった15)。別のSTORMの実験からは、TCR/CD3複合体のITAMが全てリン酸化されると細胞決定因子Notch1TCRナノクラスターにリクルートする現象が示された16)

            B細胞受容体(B cell receptor: BCR)の抗原認識と初期の活性化のメカニズムには、矛盾した幾つものモデルが存在する。① リガンドと結合することで側面方向の構造変化が起こりオリゴマー形成し活性化する機構、それとは逆に、② オリゴマー形成はBCRシグナルに対し抑制性に働き、脱オリゴマー化がシグナルを伝えるという機構、③ 細胞膜を裏打ちするアクチン重合のネットワークがBCRの拡散を抑止し不活性化している機構、などである。STORMを用いたBCRの観察から、BCRB細胞静止状態ではナノクラスターとして存在すること、BCR刺激によるBCRナノクラスターの形態変化はないこと、BCRと活性化補助受容体CD19は、4回膜貫通分子CD81が制御する細胞骨格構造により分画化されているが、BCR刺激に伴いこの分画が崩壊しBCRの活性化シグナルが惹起されること、が明らかになった17)

 

免疫シナプスとMTOC

 

免疫シナプス自身が、そもそも形態学的要素の強い研究対象でもあり、研究者の多くはその形態に興味を示してきた。また、細胞骨格と免疫シナプスとの研究は、細胞傷害性T細胞がライシス顆粒を放出する際のメカニズムの探求から発展してきている(図1右上)。Chediak-Higashi病など、皮膚の色素異常と細胞傷害活性の低下が合併するいくつもの免疫不全症候群が知られているが、Griffithsらは、メラノサイトがメラノソームを運搬する機構と、細胞傷害性T細胞がライシス顆粒を運搬する機構とが、どちらも微小管輸送を介している、という共通点から研究を進めている。微小管輸送の方向性を決定しているのは、中心体もしくは微小管形成中心(microtubule-organizing center : MTOC)と呼ばれる一対の短い微小管であり、神経細胞のニューロンの極性も、MTOCの位置により、ゴルジ体やミトコンドリアの局在、神経分泌顆粒の輸送方向が決定される。Monksらは、免疫シナプスの発見より15年も前に、細胞傷害性T細胞と標的細胞との接着面に集まるMTOCに注目していたが、免疫シナプス形成における細胞骨格構造の再構築も、まずMTOCのシナプス直下への移動から始まり、サイトカイン18)やエクソソーム、ライシス顆粒19)の放出方向が決まっていく。MTOCの移動は、TCRが刺激を受けた方向(つまり免疫シナプス)で決まり、TCR下流のPLCγ1が産生する細胞膜脂肪酸メディエーターdiacylglycerol (DAG)の濃度の高い細胞膜の方向に、ダイニン—ダイナクチン複合体などの微小管関連蛋白によって運ばれる20)。ダイニン—ダイナクチン複合体はp-SMACでの接着分子インテグリン群LFA-1very late antigen 4 (VLA-4)の安定化にも寄与している。MTOCから伸長している微小管は、MTOCの固定後、アセチル化、チロシン修飾、グルタミン酸修飾、グリシン修飾を経て、細胞骨格として安定化する。MTOCを挟んで免疫シナプスと対称の位地には核が移動してくる。MTOCは、アクチン重合や中間径フィラメント、微小管を介して、核を免疫シナプス近傍に引き寄せるメカノトランスダクションの中心的役割も果たしており、免疫シナプスで活性化した転写因子の円滑な核への移動、mRNAなどを介した核から免疫シナプスへの情報伝達などに重要であると考えられている。

 

 

免疫シナプスにおける小胞輸送

 

ライシス顆粒の輸送を含めて、T細胞の基本機能に必要な(TCR/CD3のインターナリゼーションやリサイクリング)小胞輸送は、soluble NSF attachment protein receptor (SNARE)など既存の小胞輸送系によって行われている。小胞輸送は、小胞上のRabファミリー蛋白と標的膜上の係留蛋白との組み合わせで行き先が決まり、小胞上の膜貫通蛋白v-SNAREと標的膜上のt-SNAREとの結合によって細胞膜接着・融合が起こる。ライシス顆粒はRab27av-SNARE蛋白vesicle-associated membrane protein (VAMP) 2を発現しており、キネシン1やミオシンIIAの動力源によって微小管経由で免疫シナプスまで運ばれた後、免疫シナプス上のシンタキシン11と結合し、グランザイムやパーフォリンを開口放出する。超解像顕微鏡の項で解説したSSVsも、SNARE小胞輸送系によって細胞内輸送されている。シグナル活性は細胞表面のTCRマイクロクラスターだけで起こるのか、それともシグナル活性を有するTCR/CD3+ SSVsも存在するか、を議論する上でも、SNAREの分布を検討することは重要である。CD3+ SSVsv-SNAREうちVAMP3を発現しており細胞膜上のt-SNAREシンタキシンと結合する。一方、LAT+ SSVsVAMP7を発現しているため、細胞膜との融合はない21)。この結果は、細胞表面からでもSSVsからでもTCRの活性化シグナルがSSVsLATシグナルソームに伝播することを示唆している。微小管結合分子End binding1 (EB1)は、LAT+ SSVsCD3+ SSVsとの会合、それにより伝達されるLATからPLCg1に至る活性化シグナルに重要と報告されている。リン酸化CD3ζ+(つまり直前にTCR活性化シグナルを受けた)SSVsは、後期エンドソームマーカーのRab7とリサイクリングエンドソームマーカーのRab11の両方が陽性であり、MTOCに集まるリン酸化CD3ζ+ SSVsが、細胞表面受容体に由来し活性化シグナルを伝える機能的細胞内小胞であることが分かる。エンドソームに局在するアダプター蛋白uncoordinated 119 (Unc119)によって活性化したRab11と、ミオシン5Bの働きにより、細胞質内にプールされていたLck+ SSVsが免疫シナプスに小胞輸送され、TCR活性化シグナルの最初のトリガーとして働くという報告もある。

 

 

免疫シナプスとエクソソーム

 

B細胞におけるc-SMACの意義は、抗原の効率的な取り込みの「場」、であるが、T細胞ではインターナリゼーションにもエクソサイトーシスにもシグナル伝達にも働くマルチタスクな構造と考えられる。Multiple vesicular body (MVB)は、細胞表面分子がインターナリゼーションされた後、リサイクリングに進むか蛋白分解に進むかが決まる前の中間過程の小胞であり、trans-Golgi network (TGN)から運ばれてきたライソゾームなど別の小胞と融合することで、膜成分や含有分子、pHなどが変化し成熟する。また、分解されるべき蛋白は、細胞質から外側への出芽を制御するendosomal sorting complexes required for transport (ESCRT) 複合体によってMVB内へ出芽し送り込まれる。MVBは免疫シナプスの形成と共にc-SMAC直下に移動するが、蛋白分解を示す脂質マーカーlysobiphosphatidic acid (LBPA)陽性であること7)、また、ユビキチン結合蛋白Tsg101も集まることから22)MVBを介してTCR/CD3分解が進むと考えられている。一方、MVBからエクソソームとして放出される機構も存在し、microRNAを含むエクソソームは、抗原提示細胞に取り込まれ機能蛋白として転写されることが知られており、また、T細胞からのアポトーシス誘導リガンドFasLを含むエクソソームの放出も報告されている。最近、c-SMACからエクソサイトーシスされたTCRが周囲の抗原提示細胞を活性化するという、エクソソームを介した細胞間の免疫応答伝搬機構が報告された23)。細胞-細胞接着の際、“invagination(細胞膜のくびれ)”と称されたTCR/CD3のインターナリゼーションに関しても、小胞輸送の詳細なメカニズムがわかってきており、Rab35を介したエンドサイトーシス、低分子G蛋白TC21 (Rras2)RhoGが制御するアクチン重合によるクラスリン非依存的エンドサイトーシス24)T細胞上のCTLA-4が抗原提示細胞上のリガンドDC80/CD86を剥ぎ取るトランスエンドサイトーシス25) 5)などが報告されている。

 

 

免疫シナプスとミトコンドリア

 

免疫シナプスで起こる多くの物理・化学反応を支持するエネルギー問題の解決、ミトコンドリアの局在や融合・分裂を制御する微小管やMTOC、また小胞体とミトコンドリアとが協調的に機能するための会合構造mitochondrion-associated ER membranes (MAMs) の存在を考慮すると、ミトコンドリアの免疫シナプスへの移動は合目的である。免疫シナプスの形成に伴い、ミトコンドリアはキネシンやダイニンを介した微小管輸送によってMTOCへと移動し、免疫シナプスに到達、シナプスで働く分子へのATPの供給と細胞内カルシウム濃度の調節を行っている26)。ミトコンドリア分裂因子Drp1はミトコンドリア自身の移動を助け、さらにアクトミオシンを介してTCRc-SMACへ移動させ、TCRシグナルを完了させる。ミトコンドリアの小胞体への結合は、持続的T細胞活性を支えるカルシウム濃度の調節にも重要である。小胞体局在カルシウムセンサーstromal interaction molecule 1 (Stim1)とストア作動性カルシウムチャネルOrai1TCR刺激に伴い免疫シナプスに移動、細胞外からのカルシウム流入を促すが、このチャネルの機能低下時にはミトコンドリアがカルシウムのリザーバーとなるなど、免疫シナプスでのカルシウムの干渉作用も担っている。

 

 

免疫シナプス形成で誘導される非対称分裂

 

本来、非対称分裂という概念は、幹細胞から機能細胞へと分裂・分化誘導が進む際、幹細胞が幹細胞として維持されるためのモデルとして提唱されてきた。免疫細胞の特徴の1つとして、分化過程や環境因子などの外的影響を受けながら、少数の前駆細胞から複雑なサブセットが形成されることがあげられる。T細胞が抗原提示細胞と接着し、刺激を受け、細胞分裂を行う際、免疫シナプス形成に伴う分子の極性が生まれる。シナプス側の娘細胞と反対側の娘細胞との間には、運命決定分子の不均等も生じるため、免疫シナプス形成を機とした娘細胞の不均一性=多様性が考えられるようになった。最初の例は、CD8+ T細胞のエフェクター細胞と記憶細胞との不均等分裂である27)。不均等分裂には、上皮細胞など細胞種を超えて発現している細胞極性分子群が関与しており、それら分子の再配列も免疫シナプスの形成を機に始まる。細胞極性分子Par3—Par6—非典型PKCζは免疫シナプスとは対局の位置(遠位娘細胞)に、(Disc large) Dlg—Scribble—Lathal giant larvae (Lgl)Par1は免疫シナプス側(近位娘細胞)に移動し、Par1は中心体の移動に、Dlgは微小管ネットワークの構築に寄与する。CD4+ T細胞からヘルパー細胞への分化過程では、PKCzによるリン酸化依存的にプロテアソームが近位娘細胞に集まり、Th1分化誘導転写因子T-betを分解するため、T-betの不均等が起こり、近位娘細胞はTh2細胞へ、遠位はTh1細胞へと分化する28)。また胚中心B細胞では、CD40やインテグリンを介するシグナルなど、細胞に極性を持たせた刺激時にのみ、Bcl6IL-21受容体、PKCzの不均等分裂が起こり、片方の娘細胞からの濾胞B細胞への分化誘導が起こる29)。また、B細胞がマクロファージから抗原を受け取った際、細胞分裂に伴う、取り込んだ抗原の不均等分布が起こり、抗原量が多く抗原提示能の高いB細胞はよりT細胞との接着性が高く、体細胞変異やクラススイッチの機会が多くなると報告されている28)

 

おわりに

 

免疫シナプス研究はin vivoでも進められてはいるが、これまで概説してきたような特殊構造が、実際に体内でおこる免疫応答の際にもつくられているかどうか、現在の工学技術で解決するのは難しいようである。免疫シナプスが発見された当時、T細胞シグナル伝達研究に携わっていた研究者の多くが、SMACを画像化することに集中したが、レトロスペクティブに見ると正しくない解釈も多々含まれている。現在の超解像顕微鏡を用いたナノクラスターの観察も、腫瘍細胞のみを用いていたり、固相化した抗体で刺激したり、キネティクスもおかしかったりと、まだ大雑把な研究結果に過ぎず、正しい答えを得るには時間を要すると感じる。特に、超解像顕微鏡ゆえに何かが見えてしまうため、その何かが生理的活性をもつ意味のある構造か、結論付けることは難しい。答えが出ないゆえ、考察するところに学問としての面白さもあるのだとは思うが、実際に機能しているのか、モデルだけで終わるのか、今後の研究成果に期待したい。

 


古典的免疫シナプス

 

TCRが、実際抗原提示細胞上には少ししか存在しえない抗原ペプチド+MHCといかに効率良く結合し、T細胞に活性化シグナルを伝えるかを説明するため、“Serial triggering”モデル(1つの抗原+MHCが数千のTCRと連続的に結合・解離を繰り返す)、“Pseudo-dimer”モデル(1つのTCRが抗原+MHCに結合すると、隣の自己抗原+MHCに別のいくつものTCRが連続的に結合・解離し、リン酸化される)、“Dwell time”モデル(同じTCRと抗原+MHCが何度も結合・解離を繰り返し、反応を蓄積する)などさまざまな概念が提唱されてきた。免疫シナプスも、そのTCR応答の効率を上げる1つのモデルとして提唱され、イメージングによって証明された構造物である。TCRが単離された30年前から、T細胞と抗原提示細胞との通信手段として、神経細胞に似たシナプス構造の存在が期待されていたが、顕微鏡の進歩に伴いそれが可視化され、Monksらにより“Supramolecular activation cluster (SMAC)”として1)McConnellの抗原提示平面脂質二重膜法を用いたDustinらにより「免疫シナプス (immunological synapse)」として発表された2)。このとき「免疫シナプス」と定義された構造は、T細胞と抗原提示細胞との接着面に構築される、受容体とリガンドおよびその下流のシグナル伝達分子が再配列してできた同心円状構造である。TCRMHCと非典型プロテインキナーゼprotein kinase C θ (PKCθ)が接着面の中心部に集まりcentral(c)-SMACとなり、その周囲を接着分子lymphocyte function-associated antigen-1 (LFA-1)intercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)と細胞骨格分子タリンやアクチンが取り囲み、peripheral(p)-SMACを構築する(図1左上)。細胞表面分子が再配列する機序は、受容体+リガンドの高さが150nm前後の背の低い分子群が中心部に、LFA-1—ICAM-1結合など400nm前後の背の高い分子群はそれより外側に排除される力学モデル“Kinetic segregation”モデルで説明されている。背の高い膜型フォスファターゼCD45は、TCRシグナルの最初のトリガーとなるSrcキナーゼLckの脱リン酸化を行うが、活性化型(=脱リン酸化)Lckに変換後は、ほかのTCR下流シグナル伝達分子の脱リン酸化反応を回避するため、免疫シナプスの外側に追いやられる。CD45が追いやられたp-SMACより外側の領域はdistal(d)-SMACと呼ばれている。このSMAC構造の構築とT細胞の活性化とが相関していたため、免疫シナプスは、T細胞が抗原を認識し活性化するために必須な構造であると考えられるようになった。一方、明確なSMAC構造が確認されるのはT細胞—B細胞間接着であり、T細胞—樹状細胞間接着では不明瞭であったことから、T細胞の活性化に必須とは言えないケースも出てきた。また、後に、より微細なシグナルクラスターが多数発見されてきたことから、現在では、SMAC構造の有無ではなく、T細胞—抗原提示細胞間の機能的接着面を総じて「免疫シナプス」と呼ぶようになっている。

 

 

活性化の最小ユニット:マイクロクラスター

 

免疫シナプスは、形態と機能とを融合させる理想的な概念ではあったが、SMACが構築されるまでにはT細胞と抗原提示細胞との接着後5-10分の時間を要するのに対し、これまでのT細胞の生化学的解析からは、下流のシグナル伝達分子のリン酸化は1分以内にピークに達すること、カルシウムの流入に至っては10数秒で起こることは明らかであった。この矛盾を解決するために、SMACの形成以前のT細胞活性化シグナルを伝える何か別の構造の存在が期待されていた。この矛盾を解決したのが、著者らが発見・命名した「TCRマイクロクラスター」である3) (図1右下)。TCRマイクロクラスターは、20-30個のTCRzeta-chain-associated protein kinase 70 (Zap70)などのキナーゼ、SH2-domain-containing leukocyte protein of 76 kDa (SLP-76)に代表されるアダプターなどTCR下流のシグナル伝達分子が凝集したシグナルソームである。T細胞と抗原提示細胞や、T細胞と抗原提示平面脂質二重膜との接着面に観察される。T細胞は抗原提示膜に遭遇すると、1分をかけて膜上を接着していくが、TCRマイクロクラスターは最初の1点から、新たに広がりつつある接着面に次々につくられ、最終的には接着面全体に200-300個形成される。その後T細胞の収縮に伴い、TCRマイクロクラスターは中心部に移動を始め5分をかけてc-SMACとなる。下流のシグナル伝達分子もTCRマイクロクラスターに凝集するが、数十秒という短い時間しか会合せず、c-SMACとして集まるTCRはシグナル活性を欠き、最終的にはc-SMACにてエンドサートーシスされ役目を終える(図1右下)。カルシウムの流入はTCRマイクロクラスターが2-3個できた時点でピークを迎えること、リン酸化チロシンも形成直後のマイクロクラスターに局在することから、TCRマイクロクラスターの11つがシグナルソームとして機能し、T細胞の活性化は個々のTCRマイクロクラスターからのシグナルの総計であることが想像される。c-SMACが形成された後も、T細胞と抗原提示膜との新たな接着面では、シグナル活性を持った微小なTCRマイクロクラスターが形成され、c-SMACへの移動を繰り返している。ここからのシグナルはT細胞のアクチン重合やインテグリンへのインサイドアウトシグナルとなっており、免疫シナプスの接着性と安定化を担っている。また、T細胞の正の補助刺激受容体CD28は、そのリガンドCD80/CD86と結合することで、c-SMACの最外部にPKCθCARD domain-containing MAGUK protein 1 (CARMA1)を含む輪状のシグナルソームを構築し、nuclear factor-kB (NF-kB)経路の活性中心としてT細胞活性の維持を担う4)。マイクロクラスターは、ヘルパーT細胞のほか、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞をはじめ5)B細胞、NK細胞、NKT細胞など抗原受容体を持つ免疫細胞全般に見られ、各々のシグナルソームとして働いている6)。時空間的ともいえるTCRマイクロクラスターの運動は、アクチン重合によるアクチンレトログレードフロー、ミオシンIIA、ダイニンを介する微小管輸送を動力源として制御されている7)8)。また、活性化シグナル伝達分子だけでなく、抑制性シグナルを担う受容体やシグナル伝達分子も、マイクロクラスターを形成することがわかっている。負の補助刺激受容体cytotoxic T lymphocyte-associated protein 4 (CTLA-4)c-SMACに構築されたCD28—NF-kB活性中心を破壊する9)Programmed cell death 1 (PD-1)は、フォスファターゼSH2 domain-containing tyrosine phosphatase 2 (SHP2)を引き連れながらTCRマイクロクラスターに凝集し、TCR/CD3複合体やマイクロクラスターに集まる活性化シグナル伝達分子を脱リン酸化する10)

 

 

超解像顕微鏡でわかる免疫シナプスの微細構造

 

TCRマイクロクラスターの存在が明らかになった時点で、多くの免疫学研究者は、「マイクロクラスターの形成以前にさらなるクラスターはあるか」という疑問を抱いていた。Davisらは、T細胞の細胞膜の凍結剥離切片を電子顕微鏡観察することで、細胞膜分子がプレクラスター状態で存在することを発見した11)。細胞膜は蛋白組成とリン脂質組成とにより3つの部位に分けられ、① linker for activated T cells (LAT)など脂質raft局在分子の集まった“raft protein island”と、② TCRなどの膜タンパクが豊富な“non-raft protein island”、③ 蛋白が粗な“protein-free plasma membrane”が存在し、非活性状態の細胞では後者③が前者①②を隔離し反応を抑えているという“island”モデルである(図1左下)。当初は標本作製時の人工物である可能性も否定できなかったが、最近の超解像顕微鏡の解析により、プレクラスターの存在が明らかになった。

            現在の超解像顕微鏡には3種類の方式があり、① 従来の蛍光顕微鏡を利用しスリット状の励起光を、角度を変えて照射、画像収集し、スリットの角度の違いから生じるモアレを利用して解像度を上げるstructural illumination microscopy (SIM)、② 共焦点レーザー顕微鏡を応用し、スキャニングレーザーのほかに、放出波長の膨らみを打ち消すためのドーナツ状の脱励起ビームを当て、小領域からのデータを収集するstimulated emission depletion (STED)顕微鏡、③ 微弱な全反射光(エバネッセント光)と光励起可能なスイッチ機能付き蛍光プローブを利用したphotoactivated localization microscopy (PALM) / stochastic optical reconstruction microscopy (STORM)である。PALM / STORMでは、一度全ての蛍光プローブを退色させ、弱い回復波長光で一部のプローブをランダムに回復させ、励起光で位地データを収集、それを何千回と繰り返すことで1枚の画像データを構築するため、xy軸解像度30nmz軸解像度140nmという超高解像度を誇り、ノーベル賞受賞者3人の内、2人の業績もこの原理による。PALMを用いた観察により、電子顕微鏡で確認されていたようなTCRLATとの独立した直径40-250nmのプレクラスター(ナノクラスター)の存在が明らかになり、TCR刺激と共にそれぞれのprotein islandが接合はするが融合することはない、という面白い現象もわかった12)。また、別のPALMを用いた実験では、細胞膜に存在するLATのプレクラスターはTCRの活性化シグナルには関係なく、シナプス直下の小胞 (Subsynaptic vesicles : SSVs)に貯蓄されている小胞内 LATTCR刺激の後で細胞膜にリクルートし、TCRシグナルを伝える活性化LATとして働くことが分かったが13)、細胞表面上に最初から存在するLATTCRのプレクラスターが実際のシグナルに寄与するという結果も最近報告されている。2色の蛍光プローブを用いたPALMの観察では、TCRのプレクラスターは2-3個のTCRからなり、これまで描画されてきた分子間隔離よりも、もっと複雑に混在していることが予想される14)。また、TCRナノクラスターと重なるTCR下流のシグナル伝達分子はZap70のみであり、LATはリン脂質リパーゼphospholipase Cγ1 (PLC γ1)SLP-76などほかのシグナル伝達分子と重なること、特にSLP-76ナノクラスターはLATナノクラスターの周囲を珊瑚礁のように取り囲んでいること、Zap70SLP-76のナノクラスターはTCR刺激の強さとリン酸化の程度によって共局在しえることが明らかになった。このような分子による挙動の違いは、リン酸化チロシンの数とクラスターに集まる分子の数が決まるSLP-76のような蛋白-蛋白分子間作用を機序とする分子か、LATのように蛋白-蛋白と蛋白-脂質間の両方の分子間作用を機序とする分子かの違いであり、これまでの生化学的解析結果を裏付けるものである。さらに、PALMを用いたLckの観察から、Lckナノクラスターの形成が、上記の分子間作用ではなく、CD45による脱リン酸化後の構造変化で起こることが分かった15)。別のSTORMの実験からは、TCR/CD3複合体のITAMが全てリン酸化されると細胞決定因子Notch1TCRナノクラスターにリクルートする現象が示された16)

            B細胞受容体(B cell receptor: BCR)の抗原認識と初期の活性化のメカニズムには、矛盾した幾つものモデルが存在する。① リガンドと結合することで側面方向の構造変化が起こりオリゴマー形成し活性化する機構、それとは逆に、② オリゴマー形成はBCRシグナルに対し抑制性に働き、脱オリゴマー化がシグナルを伝えるという機構、③ 細胞膜を裏打ちするアクチン重合のネットワークがBCRの拡散を抑止し不活性化している機構、などである。STORMを用いたBCRの観察から、BCRB細胞静止状態ではナノクラスターとして存在すること、BCR刺激によるBCRナノクラスターの形態変化はないこと、BCRと活性化補助受容体CD19は、4回膜貫通分子CD81が制御する細胞骨格構造により分画化されているが、BCR刺激に伴いこの分画が崩壊しBCRの活性化シグナルが惹起されること、が明らかになった17)

 

免疫シナプスとMTOC

 

免疫シナプス自身が、そもそも形態学的要素の強い研究対象でもあり、研究者の多くはその形態に興味を示してきた。また、細胞骨格と免疫シナプスとの研究は、細胞傷害性T細胞がライシス顆粒を放出する際のメカニズムの探求から発展してきている(図1右上)。Chediak-Higashi病など、皮膚の色素異常と細胞傷害活性の低下が合併するいくつもの免疫不全症候群が知られているが、Griffithsらは、メラノサイトがメラノソームを運搬する機構と、細胞傷害性T細胞がライシス顆粒を運搬する機構とが、どちらも微小管輸送を介している、という共通点から研究を進めている。微小管輸送の方向性を決定しているのは、中心体もしくは微小管形成中心(microtubule-organizing center : MTOC)と呼ばれる一対の短い微小管であり、神経細胞のニューロンの極性も、MTOCの位置により、ゴルジ体やミトコンドリアの局在、神経分泌顆粒の輸送方向が決定される。Monksらは、免疫シナプスの発見より15年も前に、細胞傷害性T細胞と標的細胞との接着面に集まるMTOCに注目していたが、免疫シナプス形成における細胞骨格構造の再構築も、まずMTOCのシナプス直下への移動から始まり、サイトカイン18)やエクソソーム、ライシス顆粒19)の放出方向が決まっていく。MTOCの移動は、TCRが刺激を受けた方向(つまり免疫シナプス)で決まり、TCR下流のPLCγ1が産生する細胞膜脂肪酸メディエーターdiacylglycerol (DAG)の濃度の高い細胞膜の方向に、ダイニン—ダイナクチン複合体などの微小管関連蛋白によって運ばれる20)。ダイニン—ダイナクチン複合体はp-SMACでの接着分子インテグリン群LFA-1very late antigen 4 (VLA-4)の安定化にも寄与している。MTOCから伸長している微小管は、MTOCの固定後、アセチル化、チロシン修飾、グルタミン酸修飾、グリシン修飾を経て、細胞骨格として安定化する。MTOCを挟んで免疫シナプスと対称の位地には核が移動してくる。MTOCは、アクチン重合や中間径フィラメント、微小管を介して、核を免疫シナプス近傍に引き寄せるメカノトランスダクションの中心的役割も果たしており、免疫シナプスで活性化した転写因子の円滑な核への移動、mRNAなどを介した核から免疫シナプスへの情報伝達などに重要であると考えられている。

 

 

免疫シナプスにおける小胞輸送

 

ライシス顆粒の輸送を含めて、T細胞の基本機能に必要な(TCR/CD3のインターナリゼーションやリサイクリング)小胞輸送は、soluble NSF attachment protein receptor (SNARE)など既存の小胞輸送系によって行われている。小胞輸送は、小胞上のRabファミリー蛋白と標的膜上の係留蛋白との組み合わせで行き先が決まり、小胞上の膜貫通蛋白v-SNAREと標的膜上のt-SNAREとの結合によって細胞膜接着・融合が起こる。ライシス顆粒はRab27av-SNARE蛋白vesicle-associated membrane protein (VAMP) 2を発現しており、キネシン1やミオシンIIAの動力源によって微小管経由で免疫シナプスまで運ばれた後、免疫シナプス上のシンタキシン11と結合し、グランザイムやパーフォリンを開口放出する。超解像顕微鏡の項で解説したSSVsも、SNARE小胞輸送系によって細胞内輸送されている。シグナル活性は細胞表面のTCRマイクロクラスターだけで起こるのか、それともシグナル活性を有するTCR/CD3+ SSVsも存在するか、を議論する上でも、SNAREの分布を検討することは重要である。CD3+ SSVsv-SNAREうちVAMP3を発現しており細胞膜上のt-SNAREシンタキシンと結合する。一方、LAT+ SSVsVAMP7を発現しているため、細胞膜との融合はない21)。この結果は、細胞表面からでもSSVsからでもTCRの活性化シグナルがSSVsLATシグナルソームに伝播することを示唆している。微小管結合分子End binding1 (EB1)は、LAT+ SSVsCD3+ SSVsとの会合、それにより伝達されるLATからPLCg1に至る活性化シグナルに重要と報告されている。リン酸化CD3ζ+(つまり直前にTCR活性化シグナルを受けた)SSVsは、後期エンドソームマーカーのRab7とリサイクリングエンドソームマーカーのRab11の両方が陽性であり、MTOCに集まるリン酸化CD3ζ+ SSVsが、細胞表面受容体に由来し活性化シグナルを伝える機能的細胞内小胞であることが分かる。エンドソームに局在するアダプター蛋白uncoordinated 119 (Unc119)によって活性化したRab11と、ミオシン5Bの働きにより、細胞質内にプールされていたLck+ SSVsが免疫シナプスに小胞輸送され、TCR活性化シグナルの最初のトリガーとして働くという報告もある。

 

 

免疫シナプスとエクソソーム

 

B細胞におけるc-SMACの意義は、抗原の効率的な取り込みの「場」、であるが、T細胞ではインターナリゼーションにもエクソサイトーシスにもシグナル伝達にも働くマルチタスクな構造と考えられる。Multiple vesicular body (MVB)は、細胞表面分子がインターナリゼーションされた後、リサイクリングに進むか蛋白分解に進むかが決まる前の中間過程の小胞であり、trans-Golgi network (TGN)から運ばれてきたライソゾームなど別の小胞と融合することで、膜成分や含有分子、pHなどが変化し成熟する。また、分解されるべき蛋白は、細胞質から外側への出芽を制御するendosomal sorting complexes required for transport (ESCRT) 複合体によってMVB内へ出芽し送り込まれる。MVBは免疫シナプスの形成と共にc-SMAC直下に移動するが、蛋白分解を示す脂質マーカーlysobiphosphatidic acid (LBPA)陽性であること7)、また、ユビキチン結合蛋白Tsg101も集まることから22)MVBを介してTCR/CD3分解が進むと考えられている。一方、MVBからエクソソームとして放出される機構も存在し、microRNAを含むエクソソームは、抗原提示細胞に取り込まれ機能蛋白として転写されることが知られており、また、T細胞からのアポトーシス誘導リガンドFasLを含むエクソソームの放出も報告されている。最近、c-SMACからエクソサイトーシスされたTCRが周囲の抗原提示細胞を活性化するという、エクソソームを介した細胞間の免疫応答伝搬機構が報告された23)。細胞-細胞接着の際、“invagination(細胞膜のくびれ)”と称されたTCR/CD3のインターナリゼーションに関しても、小胞輸送の詳細なメカニズムがわかってきており、Rab35を介したエンドサイトーシス、低分子G蛋白TC21 (Rras2)RhoGが制御するアクチン重合によるクラスリン非依存的エンドサイトーシス24)T細胞上のCTLA-4が抗原提示細胞上のリガンドDC80/CD86を剥ぎ取るトランスエンドサイトーシス25) 5)などが報告されている。

 

 

免疫シナプスとミトコンドリア

 

免疫シナプスで起こる多くの物理・化学反応を支持するエネルギー問題の解決、ミトコンドリアの局在や融合・分裂を制御する微小管やMTOC、また小胞体とミトコンドリアとが協調的に機能するための会合構造mitochondrion-associated ER membranes (MAMs) の存在を考慮すると、ミトコンドリアの免疫シナプスへの移動は合目的である。免疫シナプスの形成に伴い、ミトコンドリアはキネシンやダイニンを介した微小管輸送によってMTOCへと移動し、免疫シナプスに到達、シナプスで働く分子へのATPの供給と細胞内カルシウム濃度の調節を行っている26)。ミトコンドリア分裂因子Drp1はミトコンドリア自身の移動を助け、さらにアクトミオシンを介してTCRc-SMACへ移動させ、TCRシグナルを完了させる。ミトコンドリアの小胞体への結合は、持続的T細胞活性を支えるカルシウム濃度の調節にも重要である。小胞体局在カルシウムセンサーstromal interaction molecule 1 (Stim1)とストア作動性カルシウムチャネルOrai1TCR刺激に伴い免疫シナプスに移動、細胞外からのカルシウム流入を促すが、このチャネルの機能低下時にはミトコンドリアがカルシウムのリザーバーとなるなど、免疫シナプスでのカルシウムの干渉作用も担っている。

 

 

免疫シナプス形成で誘導される非対称分裂

 

本来、非対称分裂という概念は、幹細胞から機能細胞へと分裂・分化誘導が進む際、幹細胞が幹細胞として維持されるためのモデルとして提唱されてきた。免疫細胞の特徴の1つとして、分化過程や環境因子などの外的影響を受けながら、少数の前駆細胞から複雑なサブセットが形成されることがあげられる。T細胞が抗原提示細胞と接着し、刺激を受け、細胞分裂を行う際、免疫シナプス形成に伴う分子の極性が生まれる。シナプス側の娘細胞と反対側の娘細胞との間には、運命決定分子の不均等も生じるため、免疫シナプス形成を機とした娘細胞の不均一性=多様性が考えられるようになった。最初の例は、CD8+ T細胞のエフェクター細胞と記憶細胞との不均等分裂である27)。不均等分裂には、上皮細胞など細胞種を超えて発現している細胞極性分子群が関与しており、それら分子の再配列も免疫シナプスの形成を機に始まる。細胞極性分子Par3—Par6—非典型PKCζは免疫シナプスとは対局の位置(遠位娘細胞)に、(Disc large) Dlg—Scribble—Lathal giant larvae (Lgl)Par1は免疫シナプス側(近位娘細胞)に移動し、Par1は中心体の移動に、Dlgは微小管ネットワークの構築に寄与する。CD4+ T細胞からヘルパー細胞への分化過程では、PKCzによるリン酸化依存的にプロテアソームが近位娘細胞に集まり、Th1分化誘導転写因子T-betを分解するため、T-betの不均等が起こり、近位娘細胞はTh2細胞へ、遠位はTh1細胞へと分化する28)。また胚中心B細胞では、CD40やインテグリンを介するシグナルなど、細胞に極性を持たせた刺激時にのみ、Bcl6IL-21受容体、PKCzの不均等分裂が起こり、片方の娘細胞からの濾胞B細胞への分化誘導が起こる29)。また、B細胞がマクロファージから抗原を受け取った際、細胞分裂に伴う、取り込んだ抗原の不均等分布が起こり、抗原量が多く抗原提示能の高いB細胞はよりT細胞との接着性が高く、体細胞変異やクラススイッチの機会が多くなると報告されている28)

 

おわりに

 

免疫シナプス研究はin vivoでも進められてはいるが、これまで概説してきたような特殊構造が、実際に体内でおこる免疫応答の際にもつくられているかどうか、現在の工学技術で解決するのは難しいようである。免疫シナプスが発見された当時、T細胞シグナル伝達研究に携わっていた研究者の多くが、SMACを画像化することに集中したが、レトロスペクティブに見ると正しくない解釈も多々含まれている。現在の超解像顕微鏡を用いたナノクラスターの観察も、腫瘍細胞のみを用いていたり、固相化した抗体で刺激したり、キネティクスもおかしかったりと、まだ大雑把な研究結果に過ぎず、正しい答えを得るには時間を要すると感じる。特に、超解像顕微鏡ゆえに何かが見えてしまうため、その何かが生理的活性をもつ意味のある構造か、結論付けることは難しい。答えが出ないゆえ、考察するところに学問としての面白さもあるのだとは思うが、実際に機能しているのか、モデルだけで終わるのか、今後の研究成果に期待したい。